瓜子姫の敵

物語のタイトルとして『瓜子姫』ではなく『瓜子姫とあまのじゃく』とする場合はわりと多いです。
最近ではむしろ、『瓜子姫とあまのじゃく』というほうが、正式タイトルとして認識されているのではないでしょうか?
たしかに、物語の流れからすればあまのじゃくは、むしろ主人公のひとりであり、タイトルに名が入るのもうなずけるところ。
しかし、日本全国に伝わる『瓜子姫』のお話を総括する場合、『瓜子姫とあまのじゃく』では少々都合が悪いのです。
なぜなら、『瓜子姫』のお話は、どの地方のものであれ、瓜子姫は必ず登場しする(瓜姫など、名前がことなる場合も含めて)のに対して、あまのじゃくは、地方によっては登場しない場合もあるのです!
あまのじゃくは、けっして一般に知られた「親しみのある」妖怪ではなかったためか、話者が「身近な悪」としてわかりやすいものに置き換えたためでしょう。
ここでは、あまのじゃく以外の瓜子姫の「敵」となるキャラクターを紹介してみようと思います。


1、山姥(やまんば)
『山姥の錦』のお話などに登場する妖怪。
醜い老婆の姿をしているとされ、ひとなどの肉を喰らう獰猛な妖怪として描かれることが多いようです。
物語において、やることはあまのじゃくとほとんど変わりません。
東では瓜子姫を殺し、西では木に縛る、という点においても。
あまのじゃくは、もともと女性的な妖怪でしたが次第にその要素は薄れ、男なのか女なのかよくわからない存在になっていきました。
そのため、話者は「女性」で「よく知っている」妖怪として、あまのじゃくの代わりに山姥を選んだのでしょう。
逆に言えば、あまのじゃくでなくても話は成立する、ということ……。

2、狼
東北に数話存在し、全ての話で瓜子姫は食い殺されています。
狼とはいうものの、人語を語り、さらには瓜子姫の皮を着て変装するなど、むしろ妖怪に近い存在として描かれています。
牧畜が盛んでなかった日本では、ヨーロッパに比べて狼の被害は少なく、むしろ「畑を荒らす害獣を退治する」ありがたい存在(オオカミ=大神という説もあり)で、狼が悪役となる話はそれほど多くありません。
しかし、農耕のため、牛や馬を飼っている家では、やはり脅威であったのでしょう。
狼の恐ろしさをわかりやすく教える、という目的もあったのかもしれません。
なお、狼が登場する話では、ほとんどの場合、狼は退治されることはなく、山に帰っています。
脅威ではあるが同時に益ももたらす狼に対して、「注意はするが、退治はしない」という昔のひとの考えのあらわれかもしれません。

3、無理助
宮崎の一部地域のお話にだけ登場する悪役。
村の嫌われ者の男で、おそらく普通の人間。
梨をとりに行って木にのぼり、そこから瓜子姫(このおはなしでは瓜姫)に固い青い梨を投げつけて気絶させます。
そして、自分は腹いっぱい食べ、降りようとしたところ、足を滑らせて落下。頭を強打して死亡。
なんというか、恐ろしくマヌケな悪役です。勝手に死んでしまうとは。
そのインパクトのある名前と、劇的な最後のため、個人的にはものすごく印象に残る悪役です。

その他にも、狐や猿が敵となる話もあるそうです。
しかし、やたら変なものばかりに狙われるコだな、瓜子姫は……。

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