ウーフメ


鹿児島県に伝わる瓜子姫の類話「ウーフメ」。
非常に興味深いお話なので、紹介したいと思います。
参考文献は未来社『日本の民話22』 「薩摩・大隈の民話」、「柿姫」より。
原文そのままだと、わかりにくい箇所や?と思うところがおおいので、手を加えさせていただきます。


むかしむかし、
あるところにおじいさんとおばあさんがいました。
おばあさんが川で洗濯をしていると、大きな柿がドンブラコドンブラコと流れてきました。
「おや、きれいな柿だこと」
おばあさんは家へもってかえりました。
しばらくして、柴刈りに行っていたおじいさんが帰ってきました。
「ばあさんや、茶をいれてくれ」
「はいはい。きょうは柿を拾いましたから一緒に食べましょう」
と、おばあさんは柿を切ろうとしました。
すると、柿はひとりでにわれ、中から美しい女の子が出てきました。
おじいさんとおばあさんはとてもよろこんで、その子をウーフメと名づけて大切に育てました。

やがて、ウーフメが七つになったとき、
「機織がしたいから、道具を買って」
と言いました。
「おまえにはまだ早いよ」
とおじいさんは笑いましたが、ウーフメが
「買って! 買って!」
とだだをこねるので、とうとう根負けして買ってやりました。
ウーフメはそれをつかってさっそく機をおりましたが、それはそれは見事な布が織りあがりました。
「じいさま、ばあさま、これを町へもっていって売ってちょうだい」
言われたとおりにすると、布は高い値段で売れ、そしてウーフメのうわさも知れわたるようになりました。

そのころ、あまんざくめ(天探女)という悪者がいて、ウーフメをたずねてきました。
おじいさんとおばあさんはちょうど留守で、ウーフメがひとりで留守番をしていました。
「ウーフメ、ウーフメ、出て来い」
あまんざくめは優しそうな声でいいました。
「いや。いまはお留守番だもの」
「そういわないで、出ておいで」
あんまりしつこいので、
「じゃあ、ちょっとだけ」
とウーフメは出てしまいました。すると、あまんざくめはその手をひいて、無理やり柿の木の下へ連れて行きました。
あまんざくめは木にのぼって、ウーフメに柿をとってやりました。
しかし、柿から生まれたウーフメは柿を食べる機きになりません。
「これは鳥の糞がついている」
といって食べません。じゃあ、ともうひとつとってやると、
「これは渋い」
といってやっぱり食べません。いくらとっても絶対食べないので、あまんざくめはとうとう怒り出しました。
「糞生意気なガキめ! これでもくらえ!」
と固い青柿を投げつけました。
それはウーフメの頭にあたり、こぶができました。
「痛いよ〜! 痛いよ〜!」
とウーフメが泣くと、
「うるさい! 静かにしろ!」
とあまんざくめは木から下りてきました。
「クソガキめ! さっさと泣き止め!」
と、あまんざくめはウーフメをさんざんに殴りつけました。やがて、ウーフメはぐったりとしてしまいました。
「やれやれ、やっと静かになった」
あまんざくめは、ふと悪い気を起こしました。そして、ウーフメの着物をはぎ取ると、ウーフメを柿の木のてっぺんまでもっていって、枝につるしてしまいました。
そして、自分はウーフメの着物を着て、家へと帰り、ウーフメの真似をして機織をしていました。
しばらくして、おじいさんとおばあさんが帰ってきました。
「おや、機織の音が違う」
と思いましたが、あまんざくめの変装があまりにも見事だったのでふたりは気づきませんでした。

それから数日して、町で芝居がはじまることとなりました。
「ウーフメは芝居ははじめてだ。見せてやろう」
と、ふたりは偽のウーフメを連れて町へ出かけました。
そして、柿の木のところへ来たとき、あまんざくめは
「じいさま、ばあさま、ここを通るときは目をつぶって、上を見ないでください」
と頼みました。変なことを言うな、と思いましたが、可愛いウーフメのいうことだから、とその通りにしてやりました。しかし、木の上から血がポタリ、ポタリと落ちてきて、ふたりの体についたので、思わず上を見上げてしまいました。
そして、木に吊るされているウーフメを見つけのです。
「しまった! ばれた!」
あまんざくめはは逃げ出しました。サトウキビ畑をつっきり、葉で手をきっても、かまわず走り続けます。しかし、とうとうおじいさんとおばあさんにつかまってしまいました。
いまでもサトウキビの葉が赤いのは、そのあまんざくめの血が染み付いているからだ、と言います。

おじいさんとおばあさんは、ウーフメを木からおろしました。
しかし、あまんざくめに痛めつけられたうえに、何日も木に吊るされたウーフメは、もうすでに息絶えていました。
ふたりはウーフメの亡骸にとりすがって泣きました。
ふたりは、あまんざくめを斬り殺しましたが、だからといってもうウーフメは生き返りません。
元気がなくなり、とうとう寝込んでしまいました。
それから何日かたったある日のこと。ふたりの夢にウーフメが現れました。
「じいさま、ばあさま、もう私は孝行することができません。でも、最後にいいことを教えます。あまんざくめの血と、河童の血と、猿の血をまぜて、焼き物の色付けをしてください」
おじいさん、おばあさんが夢のお告げどおりにすると、それはそれはきれいな色の焼き物ができました。おかげで、ふたりはなに不自由なくのこりの人生を送ることができた、ということです。

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