瓜子姫と柿子姫
1、 むかしむかしあるところに、おじさんとおばあさんがいました。 おじいさんは山へしばかりに、おばあさんは川へせんたくへいきました。 おばあさんが川で洗濯をしていると、大きな瓜がドンブラコドンブラコ、と川上からながれてきました。 「まあ、なんて大きな瓜でしょう」 おばあさんは瓜を拾って、家に帰りました。 「おじいさ、、川でこんなものを拾いましたよ」 「おや、これはおおきくて、おいしそうな瓜だ」 おばあさんは、さっそく瓜を包丁で半分に切りました。 すると、ふしぎふしぎ。 瓜の中から、かわいらしい女の子の赤ちゃんが出てきました。 「まあ、この子はきっと神様からのさずかりものね」 「そうにちがいない。ありがたいことだ」 子どものいないふたりは大喜びで、その子に瓜子姫、という名前をつけて大切に育てました。 2、瓜子姫は大きくなると、とても美しい娘になりました。 瓜子姫は機織がとても上手で、毎日毎日、きれいな布を織り上げていました。 ある日、おじいさんとおばあさんは町へ買い物に行くことになりました。 おばあさんが言います。 「うりこひめはお留守番をしていてね。最近は、あまのじゃくが出るらしいから気をつけるのよ」 「あまのじゃく? だれなの」 おじいさんが答えます。 「あまのじゃくは、山に住んでいる鬼の女の子だ。ひとの言うことにいつも逆ってばかりのひねくれものだ」 「それに、ひとを騙したりからかったりするのが大好きな悪い鬼です。いい、誰がきても、絶対に家に入れてはだめですよ」 「はい、わかったわ。いってらっしゃい」 瓜子姫は、笑顔でふたりを見送りました。 3、瓜子姫は、早速機織をはじめました。 トンカラトン、トンカラトンと機織機は音を立てます。 「トンカラトン、トンカラバッタン、シュットントン、機織しましょうるんるんるん」 瓜子姫は機織機の音にあわせて、唄いながら機を織っていました。 すると、誰かが戸を叩く音がしました。 「あら、おじいさんたちもう帰ってきたのかしら?」 瓜子姫が窓から覗いてみると、外に汚い着物をきた女の子が立っています。よく見ると、その子の頭には小さな二本の角が生えていました。 「まあ、あの子があまのじゃくね」 4、「瓜子姫はほんとうにきれいだ」「機織が上手だ」「気持ちの優しいいい子だ」と、村の人々が瓜子姫をほめるのを、木の陰にかくれて聞いていました。そして、苦々しく思っていました。そして、瓜子姫をからかってやろうとやってきたのです。 「ねえ、瓜子姫。戸を開けてちょうだい」 あまのじゃくは、わざと優しそうな声を出します。 「だめです。だれも、家にいれてはいけないといわれています」 「そんないじわるなこと言わないで。酷いわ」 あまのじゃくは、泣きまねをしました。 「あ、なかないでください」 優しい瓜子姫は、あまのじゃうが泣いているのを見てかわいそうになりました。 「おねがい、ちょっとでいいならあけて」 「でも、おじいさん、おばあさんにしかられます」 「そうだわ。じゃあ、入れてくれなくてもいいわ。あなたが出てくればいいのよ。柿を取りに行きましょう」 あまのじゃくは、楽しそうに言いました。 「柿の木山にはたくさんの柿の木があって、そこにはたくさん柿がなっているのよ。どれも甘くて、とってもおいいしのよ」 瓜子姫も、だんだん柿をとりに行きたくなってきました。 「ねえ、一緒にいきましょう」 「ええ、行きましょう」 瓜子姫はとうとう戸を開け、外へ出てしまいました。 「さ、行きましょう」 あまのじゃくは瓜子姫の手を引っ張って連れて行きます。 (おじいさんとおばあさんはあんなこと言っていたけど、あまのじゃくさんはいいひとなのね) と瓜子姫は思いました。 5、柿の木山に行くと、たくさんの柿が実っていました。 あまのじゃくは、その中の一番大きな柿の木にのぼって、真っ赤にうれた柿を食べ始めました。 「あまのじゃくさん、わたしにもとってください」 「だめよ、ここの柿は渋いわ」 ほんとうは甘い柿なのに、あまのじゃくはそう言って、瓜子姫には取ってくれません。 「あまのじゃくさん、じゃあ、甘い柿を探しに行きましょう」 「この木のうえのほうは、きっと甘いわ」 あまのじゃくは、木から下りてきました。 「うりこひめ、甘い柿はあなたにあげるわ。さあ、木にのぼって、甘いのをたくさん食べなさい」 「でも、わたし木のぼりなんかしたことありません」 「なら、あたいが教えてあげるよ」 瓜子姫は、あまのじゃくに言われるまま、木をのぼり始めました。 「さあ、手を伸ばして枝をつかんで、うまいうまい」 最初は恐々のぼっていた瓜子姫も、だんだんおもしろくなってどんどん上へとのぼっていきました。 うりこひめが、高い枝にのぼったときです。 あまのじゃくが叫びました。 「あ、毛虫がいる!」 「え! きゃっ!」 瓜子姫は驚いて、木から落ちてしまいました。 「わ、しまった!」 あまのじゃくは慌てました。すこし脅かしてやるつもりでしたが、まさか落ちるとは思っていなかったのです。 「瓜子姫、瓜子姫」 なんど呼びかけても、瓜子姫は返事をしません。倒れたまま、ピクリとも動きません。 「どうしよう、死んじゃった」 あまのじゃくは青くなりました。 「しかたない。あたいが瓜子姫に化けて、ごまかすしかない」 あまのじゃくは、瓜子姫の着物を剥ぎ取ると、そのまま家に戻りました。 そして、機織機の前で呪文を唱えます。 すると、不思議なことにあまのじゃくの姿は瓜子姫そっくりになりました。 「これでよし」 あまのじゃくは、瓜子姫の真似をして機を織っていました。 しばらくして、おじいさんとおばあさんが帰ってきました。 「おや、機織の音がいつもと違うな」 おじさんは尋ねました。 「瓜子姫や、なにかあったのかい?」 「いえ、おじいさん。なにもありませんでしたわ」 あまのじゃくは、瓜子姫の声をまねこたえました。 6、そのころ、領主の奥方が家来たちをつれて柿の木山にやってきました。 真っ赤に熟れた柿がたくさんなっていて、とてもきれいだと聞いたからです。 「あら、あんなところにひとが倒れているわ」 奥方様は、瓜子姫を見つけました。 「もし、あなたどうしたの?」 奥方様は、なんど呼びかけても返事をしない瓜子姫のもとによって抱き起こしました。 瓜子姫は頭から血を流していました。見ると、木の根に血がついています。 「まあ、あそこで頭をうったのね」 瓜子姫は、まだかすかに息をしていました。 「この子を屋敷へつれていって。気をうしなっているわ」 家来と一緒に、奥方様は屋敷へかえりました。 そしてお医者さまをよんで、瓜子姫の頭を手当てさせ、きれいな布団に寝かせました。 7、それから何日かすぎました。 ずっと気をうしなっていた瓜子姫は、ようやく意識をとりもどしました。 「よかったわ。あなたのお名前は?」 「……わかりません」 「おうちは?」 「……わかりません」 なにも思い出せないのです。頭を強く打ったせいで、なにもかも忘れてしまっていたのです。 「かわいそうに。しばらく、ここにいなさい」 奥方様は、柿の木のそばでみつけたので柿子姫、という名前をつけて本当の娘のように可愛がりました。 8、柿子姫となった瓜子姫は、毎日機をおります。そのあまりに美しいできばえは、たちまちのうち大評判になりました。 「柿子姫は天下一の機織上手だ」「いや、村の瓜子姫のほうだ」「でも、瓜子姫は最近全然機織をしていないらしいぞ」 こんな話がひとがり、どちらの機織がうまいのか、機織比べをすることになりました。 「まずいことになったな」 あまのじゃくは途中で逃げようとしましたが、そのすきはなくとうとう館まできてしまいました。 柿子姫を見たおじいさんとおばあさんはびっくり。 「瓜子姫そっくりではないか!」 あまのじゃくが化けた瓜子姫を見た奥方様もびっくり。 「まあ、柿子姫そっくり!」 おじいさんとおばあさんの顔を見た瓜子姫は、いままで忘れていたことを一気に思い出しました。 「わたしがほんとうの瓜子姫です。そこにいるのはあまのじゃくです!」 あまのじゃくは取り押さえられ、ついに正体を暴かれました。 「なんという悪い鬼だ。首をはねろ!」 領主様はそう命じました。 しかし、 「まって! それはかわいそうです!」 と、瓜子姫が止めに入ります。 「しかし、この鬼はおまえに大怪我をさせたのだぞ」 「わたしも悪いんです。おじいさんとおばあさんの言うことをきかなかったから」 瓜子姫は一生懸命にたのみます。 「それに、あまのじゃくさんのおかげで奥方様や皆さんに会えたんですもの。お願いです。許してあげてください」 瓜子姫の優しさにうたれた領主様は、あまのじゃくを許してやることにしました。 「いいか、あまのじゃく、こんど悪いことをしたらただじゃおかないぞ!」 あまのじゃくは、山へ逃げ帰っていきました。 9、瓜子姫はおじいさんとおばあさんの家へ帰りました。奥方様はずっと館へいてほしいとたのんだのですが、やはりおじいさんおばあさんが大好きだったからです。 それから数年後、瓜子姫は領主様の息子と結婚し、いつまでもしあわせに暮らしたということです。 ここまで脚色するのはやりすぎ、という声もあるでしょうがやってみました。 いかがでしょうか? |