瓜子姫失神型 普及を一押し


春野ゆりは様画「気をうしなっている瓜子姫」



瓜子姫の定番
それはこちらで述べたA失神型を取るべき

前の項で
「ある程度の修正もすべきだ」と主張しましたが、それにはもちろん反抗もあるでしょう。
「語り継がれた昔話を勝手に変更してよいのか?」という

私個人の考えとしては
「物語の根幹を変えなければかまわない」と思っています。
瓜子姫の話は、もともと東北あたりの話で、瓜子姫があまのじゃくに殺害される形式(詳しく調べると、『古事記』のスサノオノミコトの話につながるとか、ハイヌレヴェ型というとかあるようですが)ですが、西に進むにしたがって、瓜子姫は殺されずにお嫁に行ってメデタシとなります。これは、すでに昔から話が改定されていることの証でもあるわけです。
昔話の改定は決してタブーではありません。
もちろん、「本来泡になって消えてしまう人魚姫の話を、王子様と結婚するハッピーエンドに変える」なんていうのは言語道断ですが。
「カチカチ山」のおばあさん、「猿蟹合戦」の母ガニが死亡せずに生きている話が最近は多いですが、あれもいけないでしょう。
しかし、瓜子姫の場合は違います。「瓜子姫が死んでしまう」バージョンだけなら、無理に生かすことはしません。
しかし、瓜子姫がちゃんと助かり、メデタシの話は西日本を中心にあるわけです。
そのため、
「瓜から瓜子姫誕生→じじばばが出かける→瓜子姫、あまのじゃくにさらわれ木に縛られる→悪事が露見。あまのじゃくは罰せられ、瓜子姫は助かる」という骨子させかえなければ、細かいところはかえてもいいと考えます。
わたしは「瓜子姫失神型」をすすめますが、その展開自体少ないとはいえ存在しますし、その要素をお話に加えても問題はないと思います。
問題はないどころか、前にも述べ、これからも述べるように
話の矛盾が解消され、疑問点が消えるという
長所があります

考えてみてください
そのメリットを捨ててまで
瓜子姫が意識をたもったまま木に縛られなくてはらない理由はなんですか?
ないですよね。
ないですよね!



・失神型をすすめる理由
バージョンの紹介でも述べましたが、
最もよく知られた「うりこひめが木に縛られる」展開は多くの疑問点があります
1、体格、力の差があるとはいえ、そんな簡単に人を縛ることができるか? 抵抗されることは間違いなにのに。ましてや、バランスの悪い木の上で。
2、深層の令嬢であるはずの瓜子姫が「着物が汚れるから、取り替えてやる」と言われて簡単に人前で、しかも外で、着替えたりするだろうか? さらには、木に登るようなことを。木登りなんかしたことがあるのか? おじいさんおばあさんはそんなおてんばに瓜子姫を育てたのか? もしおてんばだとしたら、あまのじゃくの言いなりになったりするだろうか? 着物を木の上で無理やり剥ぎ取る話もあるが、絶対無理。もみあってふたりとも落ちるのがオチ。


以上の疑問は、瓜子姫が気をうしなうことで全て解決
あまのじゃくは、瓜子姫の意識を失わせ、無抵抗なうちに着物をとりかえ、木に縛ったのです。
そして、瓜子姫が気絶したからといって

話が大きく変わることはありません。
これは、少しの修正で話の矛盾を解消し、そのうえ骨格は変化させないという素晴らしい改定なのです。
さあ、もう一度問います
それでもあなたは、瓜子姫が意識を保ったまま木に縛られなくてはならないと考えるのですか!

瓜子姫失神型の例
ここで、過去にこのバージョンを採用した話を見てみましょう。

1、日本全国国民童話の中の「瓜姫」
もっとも古く、明治の本です。
ここに宮崎県の話として「瓜姫」が紹介されています。

あらすじ
おばあさんが川で洗濯をしていると大きな瓜が流れてくる。
瓜を割ると、中から可愛い女の子が出てくる。
女の子は美しい姫に成長する。
ある日、おじいさんとおばあさんは出かけ、姫は一人で留守番をする。
そこに、村の嫌われ者、無理助という男がやってきて、姫に戸をあけさせて梨をとってやる、と連れ出す。
無理助は木に登り梨をとりますが、姫には種や皮ばかり投げつけ、実をちっともくれない。
姫が怒ると
「うるさい!」と、熟していない固い梨を投げつける。梨は姫の頭にあたり、姫は気をうしなってしまった。
無理助はそれを笑って見ていた。
そして、腹いっぱい梨を食べ、帰ろうとしたところ足をすべらせて木から落ち、死んでしまった。
姫はおじいさんとおばあさんに助けられ、目を覚ました。

この話の特徴として
・終始瓜姫ではなく「姫」と呼ばれる
・姫は機織をしない
・あまのじゃくではなく村の嫌われ者無理助
・無理助は勝手に死ぬ
というところが挙げられます。
無理助の動機は不明ですが、単なる嫌がらせでしょうか?
やはり、民間でしょうだけあって洗練されないお話ですね

2、日本のむかしばなし二年生(偕成社)中の「うり子ひめ」
二番目に古く、1956年の作品です。
おばあさんが川で洗濯をしていると大きな瓜が流れてくる。
瓜を割ると、中から可愛い女の子が出てくる。
うり子ひめと名前をつけて育てる。うり子ひめは美しく成長し、庄屋さんからお嫁にほしい、と言ってくる。
じいとばあはお嫁いりの着物を買いに町へ。
うり子ひめが機を織っていると、あまのじゃくがやってきて、庄屋さんの畑にある桃を取りに行こう、と誘う。
ひめは桃がほしくあんり、ついていってしまう。
桃の木へつくと、あまのじゃくは木に登って桃を食べ始める。ひめがとって、と頼むと固いのや虫食いなどばかり投げるのでひめは怒って「自分で取る」と木に登る。
そこへ、庄屋さんのおばあさんが畑に出てきて、ひめはあわてて木から滑り降りる。しかし、勢いがつきすぎたのか、木の根元で頭をうって、そのまま気をうしなってしまった。
あまのじゃくも木からおり、ひめの着物を剥ぎ取って逃げる。庄屋さんのおばあさんは気をうしなって倒れているひめをかわいそうに思い、自分の部屋に連れて帰って保護する。
あまのじゃくはひめに化けて、おじいさんたちを騙す。
そしてお嫁入りの日。
カラスが「うり子ひめのかごにあまのじゃくが乗っている」と唄ったので、おじいさんが調べて、正体がばれた。あまのじゃくは、尻を思い切りたたかれ、山へ逃げていった。
うり子ひめは、お嫁に行った。

この話の特徴は
・瓜子姫は不注意で気を失った
という点です。あまのじゃくはなにもしていません(笑)
瓜子姫が勝手に気絶したので、とっさに瓜子姫に化けようと考えた、といったところでしょうか。
ちなみに、話の流れからして、事件からお嫁入りの日まで日数が開いているようです。
その間瓜子姫はずっと気を失っていたことになりますが、後遺症とかはなかったんでしょうかね?


3、全日本家庭教育研究会 「ポピー 一年生」付録 「うりひめ
発行の年は不明ですが、一九七〇年ごろのものと推測されます。
現在もポピー一年生の付録として数年に一回配布されているようなので、
最も入手しやすい失神型と言えるでしょう

あらすじ
おばあさんが川で洗濯をしていると大きな箱がふたつ流れてくる。
おばさんが「重い箱こい」と唄うと、ひとつがそばに流れ着く。
帰って開けると、大きな瓜が入っていた。それを開けると、かわいい女の子が出てくる。
おじいさんとおばあさんはその子をうりひめと名づける。
うりひめは成長し、美しい娘に。
金持ちがお嫁にしたい、と言ってくる。
じいとばあはお嫁いりの着物を買いに町へ。
うりひめが機を織っていると、悪い女がやってきて無理やり戸を開けさせ、裏山に桃を取りにいこう、と無理やり連れ出す。
そして、うりひめを無理やり木に登らせ、高い枝に登ったところで木を揺する。うりひめは木から落ち、気をうしなった。
悪い女はうりひめの着物と自分の着物を交換し、うりひめを木に縛りつけ、うりひめの家に戻る。
しばらくしてじいとばあが帰ってくる。
おみやげをがつがつと食う様子をみて、偽者と気づくおばあさん。そのとき、裏山からうりひめの泣き声が。
おばあさんは裏山へいってうりひめを助ける。
悪い女はおじさんに糾弾され、うりひめのかわりにお嫁にいきたかったと告白する。
「おまえが誰からも相手にされないのは、おまえの心がけが悪いからだ」と言われ、悪い女は反省した。

さまざまな違いがありますが、後書きによると作者のかたの創作のようです
あまのじゃくが悪い女になっているあたりとか。
また、うりひめが木から落ちて気を失うのも、木から落ちて死亡するタイプのものをやわらかく書き直したもの、と考えられます。
しかし、この悪い女「成り代わってお嫁に行きたかった」わりに、うりひめを生かしておいたり、泣き声が届く程度の場所に縛ったり、と詰めが甘い!
枚数が非常に少ないので、その制約もあるのかもしれませんね。


4、名作アニメ絵本69「うりこひめ」 永岡書店
「アニメ絵のうりこひめ」という貴重な作品。
失神型としては最も新しく、そしていまのところ最後のものです

おばあさんが川で洗濯をしていると大きな瓜が流れてくる。
瓜を割ると、中から可愛い女の子が出てくる。
うりこひめと名前をつけて育てる。うり子ひめは美しく成長し、お金持ちからお嫁にほしい、と言ってくる。
じいとばあはお嫁いりの着物を買いに町へ。
うり子ひめが機を織っていると、あまのじゃくがやってきて、柿を取りに行こう、と誘う。
ひめは柿がほしくなり、ついていってしまう。
柿の木へつくと、あまのじゃくは木に登って桃を食べ始める。ひめがとって、と頼むと固い青柿ばかり投げつける。
青柿はひめの頭にあたり、ひめは気を失ってしまった。
あまのじゃくはひめを帯(ひめの着物の)で縛り、木につるし。そして自分はひめの家に戻り、妖術でひめの姿に化けた。
じいとばあが帰ってくる。
かごに乗ってお嫁に向かう。
途中の分かれ道、
左へ進むとひめをつるした木の前を通るため、右へ行ってもらおうとするが、いつも反対のことばかり言っているあまのじゃく。つい、左へ行って、といってしまう。
そしてあまのじゃくの悪事はばれ、さんざん懲らしめられて逃げ帰っていった。

特徴として
・うりこひめは着物を剥ぎ取られない。
・あまのじゃくは妖術で姫の姿に化ける
・あまのじゃくの、その性格の上での自滅
が特徴です
上記2つは、おそらく「子供向けで、着物を剥ぎ取るのはよくない」という配慮、「あまりにビジュアルの違うあまのじゃくが、化粧で化けるのは無理」というイラストの都合ではないか、と考えます。推測ですが。
さいごの項目は、中国地方あたりの比較的新しいタイプのお話らしいですが、「カラスが……」などに比べ、愉快で説得力があり、もっと採用されていいバージョンだと思われます。

ワンダー民話館 うりこひめ 世界文化社

おばあさんが川で洗濯をしていると大きな瓜が流れてくる。
瓜を割ると、中から可愛い女の子が出てくる。
うりこひめと名前をつけて育てる。うりこひめは鳥たちと仲の良い娘に成長する。
村には年に一度、神様に反物を捧げる習慣があり、それを作る役目にうりこひめが選ばれる。
じいとばあが出かけているとき、妖怪めめんじゃくがやってくる。うりこひめはめめんじゃくに騙され、戸を開けてしまう。
めめんじゃくの容姿に驚き、うりこひめはショックで気を失う。
あまのじゃくはうりこひめを大きな木のところに連れて行って縛る。
やがて、祭りのためうりこひめに化けためめんじゃくは晴れ着をきて、かごに乗りでかける。
鳥たちが本物のうりこひめは縛られていて、かごにのっているのは偽者だ、と告げたため、村人は入れ替わりに気づく。
めめんじゃくは棒で殴られるが、妖術を使い逃げ去る。その時流れた血で染まったため、そばの根本はいまでも赤い。
うりこひめは助けられ、いつまでも幸せに暮らした。

特徴として
・あまのじゃく(ここではめめんじゃく)と果物を取りに行くシーンがない
ということが挙げられます。
しかし、そこまで省かなくても……という気はします。
「布を捧げる祭り」など、独自要素が多く、純粋な民話というより「民話をもとにした童話」というべきでしょうね。



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