岩手の瓜子姫


岩手県。
東北地方は中国地方とならんで「瓜子姫」が多く採取される地域です。
その東北の中でも、秋田・山形と並んで非常に多くの採話例が見られます。

さて、東北地方の「瓜子姫」では大抵、姫が外敵によって殺害されます。
しかし!
その殺害のされ方が、地域ごとに違うんですね。
では、岩手ではどうなのでしょうか?
例話を見てみましょう。


 ……狼はいきなり内へ入って、
瓜子ノ姫子
さいばん(俎)出せッ
と言った。瓜子ノ姫子が
ダアガやアえ
爺様婆様に
クラアレンものを……
と言うと、ほんだら取って食うぞッと言う。仕方がないもんだから、瓜子ノ姫子が俎を出すと、狼は今度は、
瓜子ノ姫子
包丁出せ
と言う。
ダアガやアえ
爺様婆様に
クラアレンものを……
と瓜子ノ姫子は言う、
ほんだら取って食うぞッ
と言う。仕方がないから瓜子ノ姫子が包丁を出すと、
瓜子ノ姫子
このさいばんの上さ寝ろッ
と言う。
ダアガやアえ
爺様婆様に
クラアレンものを……
と言うと、狼は、
ほんだら取って食うぞッ
と言う。仕方がないもんだから、瓜子ノ姫子が俎の上に横になると、狼は包丁で頭だの手だの脚だのを別々に切んなぐって、そして、ああウンメエヤ、ウンメエヤ、と言って食って、骨コは縁側の下へかくして、残ったのを煮ていた。
爺様婆様が夕方山から帰って来た。そして背負って来た薪をガラガラッと下して、瓜子ノ姫子、今帰ったぞと言うと、瓜子ノ姫子に化けたオオカミは、さアさ腹が空って来たこったから、はやく飯食っとがれと言う。爺様婆様が瓜子ノ姫子を煮た肉汁を、ああウンメア、ウンメアと言って食うと、狼は、
板場の下を見サ
骨こ置いたが
見ろやエ見ろやエ
と言って狼になってさっさと逃げて行った。そして爺様婆様はまた二人っこになった。
(佐々木喜善『聴耳草紙』より)
注・狼が外敵というのは岩手県内でも珍しいモチーフです。


……キャー!
こ、怖い!
なにこれ!
姫がまな板の上でバラバラにされたうえに、料理され、爺婆それを食わせてる! その上、外敵は特に罰も受けていない!
と、このように、岩手では「姫が外敵の侵入と同時に殺害される」(鬼一口型)が多いのです。
またそれ以外にも、この例話からも見られるように、岩手の「瓜子姫」には以下のような特徴があります。
(あくまでも、傾向です。この傾向にあてはまらない類話も大量に存在します)

・鬼一口型が多い。
・姫は外敵にバラバラにされる、料理されることが多い。
・外敵はとくに罰を受けないことが多い。
※分布図をご覧ください。

確実に「無事に逃げる」と明言しているものに限って表示しました。
外敵が「無事に逃げる」のは岩手に集中していることがわかります。

・アマノジャク以外の外敵であることがやや多い。

現在の感覚で見れば「なんで?」でしょうね。
もちろん、岩手のひとが残酷だというわけではありません。
「瓜子姫」という話はもともと農耕の際に「殺される女神」=人身御供だったとする説が現在では有力です(瓜子姫の民話と焼畑農耕文化」『現代のエスプリ臨時増刊号 日本人の原点1』などを参照)。
つまり、バラバラにされて殺されるというのは、そのための儀式と考えられるのですね。
また、逃げおおせる方が多い、というのもこれとつながりがあると考えられます。
アマノジャクや、岩手で多く見られる「山姥」(さらに言えば例話のオオカミも)はもともと山の神としての側面も持っています(五来重『鬼むかし』など参照)。

つまり、姫=生贄、外敵=山の神とすれば、


生け贄である姫を山の神に捧げている

という構図となり、

生け贄を捧げられた山の神が、山へ帰って行くのはなんの不思議もない

ということになります。
つまり、岩手では人身御供譚という本来の形がもっともよく残っているということが言えるわけです。
そういう意味では、もっとも古い型の「瓜子姫」であり、本来の型に近いのかもしれません。



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