『ふるさと再生 日本の昔ばなし』の瓜子姫 ヘーベルハウス劇場、『ふるさと再生 日本の昔ばなし』にて、瓜子姫がアニメ化されました。 予告を見たときに、「あ、これは変身型だな!」と直感しました。おそらく、全国瓜子姫マニアの方々もそう思ったでしょう。 そして、予想通り、変身型を元に独自要素を加えたものでした。 まずは、その「変身型」とはどういうものか? という解説からはじめましょう。 「姫変身型」として分類したのは『日本昔話通観』10巻(同朋舎、1984) です。 原典は、医師・山田貢さんが、子供の時に聞いた昔話を思い出して書いた『あったとさ』(自刊、1942)という本で、現在の新潟県柏崎市につたわるものです。 内容は以下の通りです。ちなみに原題は「瓜姫」です。 ・爺と婆がいる。ある年、胡瓜の種をまくと大きな胡瓜がひとつだけ実る。 ・その胡瓜から女の子が出てくる。ふたりは、その子に「瓜姫」と名付ける。 ・瓜姫は大きくなると機織りの上手な娘になる。 ・ある日、爺婆はお寺参りに出かけ、誰が来ても家に入れてはいけない、と言い含める。 ・しばらくすると、天邪鬼がやってきて、二階の戸を少し開けるように頼む。姫は言われるままに、少しずつ戸を開ける。 ・天邪鬼が戸を押し開けて侵入する。姫は驚いて気を失う。 ・天邪鬼は姫の体に乗り移る。乗り移られた姫は、顔つきも変わっていた。 ・爺婆が帰って来る。姫はお土産の芋をひげもむしらずにそのまま食べる。 ・機織りのおとも乱暴で、爺はなにか変だと思う。 ・小鳥が飛んできて、姫に天邪鬼が乗り移っていると伝える。 ・爺がすごい剣幕で二階に上がると、乗り移られた姫は逃げようとする。その際に、つまずいて倒れる。 ・姫の体から黒い鳥が飛んでいく。 ・姫は、体を強く打って、もう動かなくなっていた。やがて、姫の体はふくべ(夕顔の実・ひょうたん)に変わった。 ・それから、爺婆の畑では葉一枚ごとに胡瓜がなるようになる。 他ではあまり例のない、珍しい型です。 ・姫が外敵に体を乗っ取られて性格が変わる。 ・爺から逃げようとして体を強打し、死亡する。 ・姫の死体はふくべになる。爺婆の畑で胡瓜が毎年豊作になる。 (なお、姫が胡瓜から生まれるというのは山形県北部に多く、川を流れてくるのではなく畑で採れるというモチーフは山形県南部から福島にかけて多く見られるため、決して珍しい型ではないです。新潟では珍しいですが) 特に、このあたりは他ではまず見られません。 後は、天邪鬼が鳥になって飛んでいく、というのも珍しいですね。 この型は、実は『あったとさ』以外には例がなく、これはよほど狭い範囲で語られたのか、というよりもその家だけに伝わる特殊な型か、それともだれかがアレンジしたものか……ということになり、民俗学者の関敬吾は『昔話集成』で「後半に改稿の跡がある」とコメントをつけているほどです。 本来なら、こういう珍しい型はあまり顧みられないのですが、その「改作」とコメントをつけた関敬吾が、自身の著作『日本の昔話(Ⅰ)』(岩波文庫、1956)に、この型を選んで収録しました(『瓜姫』というタイトルで、しかも一番最初にです!) なぜ、こんな珍しく、しかも伝統的でない可能性のあるものを選んだのかは謎ですが、これによって、この「変身型」は一気に知名度をあげました。 そして、主に児童文学者の西本鶏介によって、この型が絵本の原典として採用されたため、現在では割合多くの「変身型」の絵本が出回っています。 主なものでも…… ・竹本員子・文 田木宗太・絵 『うりこひめ 絵本ファンタジア』1977年 コーキ出版 ・西本鶏介・文 深沢邦朗・絵『うりこひめとあまんじゃく にほんのむかしばなし』 1980年 チャイルド本社 ・武井直紀・文 田木宗太・絵『うりこひめとあまんじゃく チャイルド絵本館』 日本のむかしばなし12 1988年 チャイルド本社 ・西本鶏介・文 池田げんえい・絵『うりこひめとあまんじゃく 保育絵本読みきかせ47』 2000年 小学館 絵本など子供向けのものは、姫が助かる「生存型」を採用しているので、「死亡型」は少ないです。「死亡型」を採用している絵本は、ほぼ「変身型」を採用しているということになります。 なぜ、絵本にこの型が取り入られられるのか? もちろん関敬吾という権威ある民俗学者の著作が元というころ、西本鶏介がこの型を気に入ってなんども絵本化した、というのは大きいです。 しかし、以下のようなメリットがあるのです。 ・「入れ替わり」のビジュアルの問題 伝統的な「語り」であれば特に問題はないのですが、挿絵を入れたばあい、「姫と入れ替わった外敵になぜ誰も気づかないのか」という違和感が生じます。外敵は異形な怪物や小さな少年のように描かれることが多いので、そのように描くとどうしても「美しい姫」と入れ替わるという描写に無理が生じるのです 絵にしてしまうと絵本では、絵の割合が大きいためそれが顕著です。 しかし、「体を乗っ取られる」というモチーフを採用すれば、肉体そのものは姫のものであるため、外見は姫と変わらないこととなります。変装が不自然であるという違和感を解消することが可能となるのです。 ・暴力的描写の抑制 「瓜子姫」は「生存型」でも「少女の着物を奪い、木に縛る」という見方によれば性的暴行ともとれる過激な描写が存在します。語りのばあいに比くらべ、絵が大きな割合を占める絵本ではその問題が顕著です。多くの絵本では、外敵のあまのじゃくを「男性」として描くこともそういったイメージを連想させやすいと考えられます。「変身型」であれば、「着物の交換」「木に縛る」といった際どい描写はなくなり絵にしやすくなるという利点があると考えられます。 つまり、変身型は「視覚化」に向いていたといえるわけですね。 そして、今回の『ふるさと再生』。 私が「変身型」だろう、と予測していたのは、実はこのためで「現在の事情では、女の子を木に縛るようなものは放映を自粛するだろう」と踏んだからです。(事実は知りません)そして、予想は的中しました。 しかし、やはりアニメ化の際に、原典とは異なる脚色が施されています。 ・姫は畑の瓜から生まれる。 ・姫が小さい頃「私はどこから生まれた」と問う。 ・大きくなった姫は、心の中で「どこにも行きたくない」と思う。 ・体を乗っ取られても姫の意識はまだ残っており、爺婆を守るために自ら二階から落ちる。 ・姫の体は割れた瓜となり、種をまくと豊作になった。 にわとりや柿などを背景に出し、他の型も参照にしたことがうかがえます。 もともと昔話と言うのは登場人物の心理描写はほとんど語りませんが、今回は「姫の心情」を大幅に加えています。 さらに、姫が自分の意思で身を挺して爺婆を守るという、強い女性の側面も加えています。 現代的なアレンジがなされていると感じました。 また、天の邪鬼の細い線をまるめたような、なんとも言えない不気味さがいいですね。 絵も、やわらかい水彩画のようなタッチで、独特な世界観を構成していました。個人的には、現代風のアニメ絵のものも見てみたい、とも思いますが。 「瓜子姫」は型が非常に多いので、また別の型で「瓜子姫」をぜひやってほしいものです。 |